「次はー千歳烏山ー千歳烏山ー」
雲に覆われた灰色の空
アジサイやかたつむりを連想させる雨
いつもより1.2倍密度の高い電車、どこの小説でも出てきそうな天気だ。
そして小説でも出てきそうな天気のように、自分の気持ちもどんよりしている。もし砂漠で生活していたらこの雨は泣いて喜ぶだろう。(ここが砂漠だったら良かったにとはさすがに思わないが)
※ここで出てくる人物名や地名は仮であり事実とは異なります。
今は新卒研修のため、新宿周辺のホテルに向かっている。
ホテルを使うなんてどんな会社だよと思うかもしれないが、うちの会社は少し特殊で、研修は一般的なビジネスマナーなどのに加えて、ホテルでの接客、清掃が5日ある。
今日はホテル研修の最終日である。これまでの色々やってきたので、まぁなんとかやれてるかなと思ったがホテルと比べると、これまでの研修が、足の短くてよく見ると不細工だなと思ってしまうが、それがまた良いんだよとそれに似た顔の女子が言いそうな猫の様にかわいく思えるほどにきつかった。
「ここ20分でやって」
「バスルームの髪の毛は残らないようにね」
「水滴は1つも残らないように拭くこと」
と無愛想で新卒だからという優しさが微塵も感じない指示を必死でこなしていた。(今思い返してみると、とても適切に教えてくれてしっかりと指導もしてくれていたのだが)
次のチェックインまでにすべての清掃を終えないと行けない、本当は研修するなんて余裕もないくらい忙しい中での研修はやはりダントツできつい。その中で一番自分を苦しめたのは
「バスルームの髪の毛は残らないようにね」の部分である。
高級ホテルなので、ほこりはもちろん、髪の毛一本残らないように隅々まで清掃を行う。これが慣れない環境だからきついとか、全然教えてくれなくて大変とか、一緒にいる同期の女の子が可愛くないとか、シンプルに”肉体的”にきつい。
そんな毎日、短時間で水滴一粒、髪の毛一本残さないようにきれいにするために汗水流し、最終日を迎えた。
ここまでくれば”今日で最後”という魔法の言葉を使い、スター状態のマリオの様に無敵になっている。(実際はダメージを受けた後、数秒だけ無敵になるマリオという表現が正しいかもしれない。)そんな文字通り満身創痍になりながら、最後の仕事が終わり研修を見てもらった先輩に報告をした。
そんな5日間コツコツ積み上げた頑張り終え、改札を通り電車に乗った。色々あったが、この5日はプロとしての仕事を体験出来たのかなと思う。
お客様のために限られた時間の中で仕事をやりきること、
頑張ったとかではなく結果を出すことが大切だと言うこと、
どんな事を言われてもある程度スルー出来るようにしないと行けない事
(3つ目は合っているかわからないが、)
大変だった分それなりに良い研修だったのかなとも思う。いやそう思わないとこれからやっていけないと感じたからそう思うようにしたのかも知れない。
『次はー千歳烏山ー千歳烏山ー』
改札を出て空を見上げた。朝の雨が嘘の様に晴れて空には虹が架かっていれば、明日も頑張ろうってなったのかも知れないが、朝と全く同じように雨が降っていた。こうしてごく普通の社会人の研修が終わった。
※ここで出てくる人物名や地名は仮であり事実とは異なります。